あがた森魚/乙女の儚夢(ろまん)

大ヒットした先行シングル「赤色エレジー」を歌う姿をテレビで見るたび、なんと情けない歌を歌う人だろうとあきれさせられたあがた森魚から、トータル・アルバムだとかアルバム・コンセプトだとかいったものをぼくは学んだ。

学ばずにはいられないではないか。こうもはっきりとテーマに据えられてしまっては。こうも巧妙に、個々の曲以上にアルバムの全体像に嫌でも目が行く仕掛けを施されてしまっては。

寄宿舎生活を送っている女生徒が母に宛てた手紙という体裁をとった女声の朗読。ジンタのリズムに乗せた見世物小屋の呼び込み。戦前の古い音源の流用。もっさりとしたはちみつぱいの演奏ともあいまって、そうした仕掛けが実にうまく機能しあい、ついには個々の曲の出来不出来や、歌の下手さなど瑣末なことでしかないとさえ思われてくるのである。

あがた森魚が異色だったのは、そのテーマに大正ロマンを選んだせいばかりでなく、アート・ワークまで含めたアルバムすべてを支配する者として登場し、単に作詞作曲し歌うだけのシンガー・ソングライターとは明らかに一線を画していたからだった。

2003.11