フリートウッド・マック/ファンタスティック・マック

ミック・フリートウッドとジョン・マクヴィー。ふたりのリズム隊がそのままバンド名となったフリートウッド・マックは、しかしながら、常に入代り立代りする他のメンバーを看板とすることで生きのび、頂点を極めた稀有なバンドである。その頂点への道は、ふたりの新メンバーを迎えて75年に発表されたこの『ファンタスティック・マック』によって開かれた。誰に訊いてもそう言うだろう。ここから始まる彼らの快進撃は、それほど鮮やかで際立っていたのである。

ふたりの新メンバーは、売れないデュオだったリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックス。大抜擢であることは、ギタリストとヴォーカリストというポジション以上に、全11曲中7曲までが彼らの作品で占められていることでもわかる。しかも6曲めの「クリスタル」に至っては、売れなかったデュオ時代の作品だ。まったくとてつもない原石を、フリートウッド・マックは見つけ出してきたものだ。実に、オーディションもなしに。

「リアノン」で堂に入った歌いっぷりを聴かせながら、裏ジャケで垢抜けない姿を晒すスティーヴィー・ニックスは数年後、妖精の名をほしいままにする。もうひとりの女性歌手、クリスティン・マクヴィーとの間でぼくの気持ちは揺れ動く。恐るべし、マックの三枚看板。

2007.05
フリートウッド・マック/噂

32週にもわたって全米チャート1位をキープし続けた77年のモンスターアルバム。制作過程でバンド内の2組のカップルは消滅し、残るひとりも離婚の憂き目にあっていたというのが語り草。そんな私生活の鬱憤が、上質なポップスとしてここに昇華されているというのがお約束の論評。

あぁ、まぁ、確かにその通り。付け加えることがあるとしたら、ポップン・ロールなる造語とか、産業ロックなんて呼び名もこの作品なしには生まれなかったろうとかそんなこと。

あとはやっぱり「ドリームス」と「オウン・ウェイ」。
4つのシングル・ヒットがこのアルバムからは出ているのだが、個人的にはこの2曲。「ドリームス」は当時行きつけの店の有線で、それはもう行くたび必ず流れていた。半ば呆れながらも、喜んで聴いていたものだ。そんな大ヒットするような曲には今聴く分にはまったく思えないが、このリズムの心地よさは今や得難い。

そして「オウン・ウェイ」。この曲のサビやギターを聴くと、ぼくは今でも熱くなる。ずばりマックの1曲はと訊かれたら、ぼくの答えはこの曲だ。スティーヴィーやクリスティンの声がはっきり聴き取れなくてもこの曲だ。

と書きながら、「ひとりマック」は無理だとしても、最もそれに近い場所にいたのはリンジー・バッキンガムだったのだなぁと気がついた。「オウン・ウェイ」を歌い上げる一方で「もう帰らない」を爪弾かずにはいられなかった彼が、意識するしないにかかわらず、この時期マックの方向性を決定づけていたのだろう。そして屋台骨を支える者、色づけする者との均衡が保たれた上にこそマックの、このアルバムの成功はあったのだ。と、これもお約束のレビュー。

2007.05