ケイト・ブッシュ/天使と小悪魔

デビュー・アルバムを一聴して、これは天才だと思った歌い手がふたりいる。ひとりは荒井由実(当時)。今ひとりはケイト・ブッシュ。
世間の評価は知らず、ぼくのなかで荒井由実は3枚めあたりで失速していくが、その寡作さゆえか、エキセントリックさゆえか、ケイト・ブッシュは今に至るも天才少女のままでいる。そんなケイト19歳時の、まさに金字塔の名に値する、これがデビュー作である。

彼女を一躍スターダムに押し上げた「嵐が丘」の演劇性と名唱ぶりはつとに有名だが、アルバム6曲めのそれを待つまでもなく、オープニングでぼくは早くもケイトにぞっこんだ。
たゆたうようなうねりに乗ったこの声はどうだろう。その原題「MOVING」の邦題を「嘆きの天使」とせずにはいられなかった担当者の気持ちがよくわかる。そうとも、これは天上から注ぐ声なのだ。これが天使の声なのだ。彼女は背中に羽を隠し持っているのにちがいないのだ。

数ある作品のなかでもデビュー作が最も出来がいいというのはよくある話だが、天才にはまるで当たらないことを、この後ケイト・ブッシュは身をもって示していく。

ちなみに、左は国内盤、右は英国盤ジャケット。どちらも捨て難いのである。

2003.10