西岡恭蔵/ディランにて

99年、先立った妻の後を追うように自殺した西岡恭蔵、72年のデビュー・アルバム。

自らのギターに、ベースとドラム、一部にピアノを配しただけで簡素という他ない演奏がはたして意図されたものなのか、あるいは単に制作費が切り詰められただけだったのか、そんなことまではもちろん知らない。しかしそれが、曲の出来と朴訥なヴォーカルを一層際立たせ、西岡恭蔵という個性を屹立させた要因となっていることにまちがいはないだろう。

思わず口ずさんでしまいたくなるような「うた」たちが、ここにはぎゅっと詰まっている。「サーカスにはピエロが」だったり「下町のディラン」だったり、「街の君」だったりあの「プカプカ」だったり、それはする。ほとんど泣きそうになりながら、ぼくはそれをうたう。

2004.05