吉田美奈子/扉の冬

細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆から成るキャラメル・ママをバックに、73年にリリースされた吉田美奈子のデビュー・アルバム。

名うてのスタジオ・ミュージシャン集団の仕事振りは当時から話題になったものだが、一番の存在感を示すのは、やはり美奈子その人のヴォーカルだろう。線は細く、音程もいささか不安定ではあるものの、その歌声には聴く者の注意を喚起するなにか、ながら聴きを許さないなにかが、ここには確かに潜んでいる。

ラジオから流れてきた「ねこ」を初めて聴いたときの、背筋がぞくっとした感覚をぼくは今も覚えている。というか、今もそれを聴くたび、戦慄が走る。やおら出たヴォーカルが10秒と過ぎないうちから、ぼくはひれ伏してしまうのだ。声の魔力、曲の魔力にからめとられて。その夢心地からは、ラストの「週末」が終わった後もしばらく覚めない。

そういう声の、吉田美奈子は持ち主なのである。

2004.07