マウンテン/暗黒への挑戦

これ以前にもマウンテンには、片面はスタジオ録音、もう片面はライヴという変則的な作品があるのだが、72年に出たこれが、初のフル・ライヴ・アルバムということになる。目玉は、B面すべてを費やした「ナンタケット・スレイライド」で、スタジオ・レコーディングで6分足らずだったそれが、ここでは17分に及ぶ一大抒情詩として再構築されている。マウンテンの魅力のほとんどすべては、まちがいなくここに凝縮されているといっていい。

つまるところそれは、ベースとギターの掛け合いだ。ベースによってまず示された道を、ギターがどのように拡張し、また逸脱していくか。投げ与えられた断片を、どんなフレーズに仕立てて斬り返すか。マウンテンの醍醐味とはまさにそこにあるわけで、そんなさまが手に取るようにわかるのが、ここでの「ナンタケット・スレイライド」なのである。

インプロビゼーションの開始をやおら歌い始めるベースが知らせるあたりから、何度聴いてもぼくの胸は熱くなる。ここだ。ここからがマウンテンだ、ここから先が本当の「ナンタケット」だ。再びヴォーカルが戻るまでの10分ほど、ぼくは今でも彼らの音に酔い痴れてしまうのだった。

2004.01