大瀧詠一/A LONG VACATION

この1枚で、ぼくらの大瀧はみんなの大瀧になった。

ここで「ぼくら」とは、はっぴいえんど末期にやれ細野派だ大瀧派だと主張しあい、三ツ矢サイダーのCMを心待ちにし、「ナイアガラ音頭」に笑い転げた、主に高校生と大学生を指す。そういうことにしておきたい。

そして、『風街ろまん』から『トロピカル・ダンディ』まで細野派を自認していたぼくはといえば、『ナイアガラ・トライアングル』が出た76年あたりを契機に大瀧派へと転向していく。その年はまた、「夢で逢えたら」が吉田美奈子に提供された年でもあった。この曲は『トライアングル』収録の「夜明け前の浜辺」などとともに、それまで強調されてきた趣味人、遊び人としての大瀧のイメージを覆そうかというものだった。

81年の大ヒット作『A LONG VACATION』、通称『ロンバケ』で堪能できるのは、そんな大瀧の職人ぶりだ。『ナイアガラ・ムーン』や『レッツ・オンド・アゲイン』に顕著だったあからさまな遊びは影を潜め、よく練られたアレンジを施された流れるような旋律が、松本隆の手になる詩を得て、かつてないほどの丁寧さで歌いこまれている。

「カナリア諸島にて」や「雨のウェンズデイ」、「恋するカレン」など、まさに珠玉の名がふさわしい楽曲ではないか。洒落たアートワークともあいまって、夏の定番としてもてはやされたのもむべなるかな。みんなの大瀧の誕生だ。

2002.11