中山ラビ/私ってこんな

それ以前の女性フォークシンガーといえば、森山良子であり、本田路津子であり、トワ・エ・モアの片割れであり、ベッツィ&クリスであった。誰もがまだキャンパス・フォークを引きずり、それはあくまでも美しく、清らかなものであらねばならなかった。でなかったとしても、よくいってせいぜいが五輪真弓止まりであった。

そういう時代、心地よい耳触りや甘い歌詞といったものとは無縁の地平で、中山ラビはデビューした。およそそれまでの女性とは異なる声で、突き放すようにふてぶてしく歌うさまは、洪栄龍、細野晴臣、林立夫らによるバック・サウンドともあいまって、妙に真に迫ってくるものだった。日常とは一線を引いたところで展開される歌の世界ではなく、今いる場所と地続きの現実が、そこには音として言葉として存在していた。

歌はもっと身近な「うた」としてぼくの前に現れ、新たな女性シンガーの時代が、まさにここに到来したのである。

2003.08