よしだたくろう/元気です。

クラスのそこかしこで常に何枚ものレコードが貸し借りされていた時代があった。ミュージシャンごとに購入担当者が決まっていたりしたものだった。すでに誰かが持っているレコードを買うのは、馬鹿げているのと同時に罪なことでもあった。

そんな状況であったのにもかかわらず、誰も彼もが持っていたような気分に陥ってしまうのが本作だ。ここに収められた「加川良の手紙」や「馬」「高円寺」などといった曲を知っていることが前提となる会話は教室内にまかり通り、「春だったね」や「夏休み」「旅の宿」に至っては、口ずさんだことがない者などいないというありさまだった。

それぐらいの威力をこの作品は持っていた。大嫌いだと声高に言う者も少なからずいたが、それすらけっして無視できる存在ではなかったことの証しだろう。それぐらいの威力をよしだたくろうは持っていた。

自主制作の延長のような弱小レーベルから大手に移籍しての期待の第1作。初期にみられた型破りな玉石混交さはもはやなく、といって狎れや円熟にもまだ遠く、例えていうなら13勝2敗の小結といった趣き。ただしこの世界、横綱はおろか大関も関脇もまだいなかった。

72年、それは歌うよしだたくろうにとっても、聴く側のぼくにとっても最も幸せな時代だったのかもしれない。

2004.03