友部正人/大阪へやって来た

72年のデビュー・アルバム。

自身のギターとハーモニカだけをバックに歌われる7分20秒のタイトル曲、同じく11分40秒の「公園のベンチで」、リズム隊にジューズハープが加わっただけの7分8秒「酔っぱらい」、それにピアノとマンドリンが絡んだ10分6秒「まるで正直者のように」。

音楽としてはむしろ寒いほどに簡素な演奏ながら、これら時間だけは妙に長い曲をきっちり最後まで聴かせてしまうのは、やはり言葉の力のなせる技。必殺の1行ともなるべき詞を、これでもかとばかりに惜しげもなく友部正人は繰り出す。おのずと耳はそばだってしまうのだった。

そして、そんな言葉をのせる旋律はといえば、単調であるがゆえに、たまに印象的なフレーズが出るとカタルシスを伴い、より以上に美しく聴こえてしまうという仕掛け。まんまとそれに嵌ってしまった16歳のぼくは、もうヒット歌謡だけの世界には戻れなかった。

友部正人。それは日本が誇る吟遊詩人の名というばかりでなく、ひとつのジャンル、ある種の「うた」のあり方を示しているさえいえるだろう。

2004.10