テレヴィジョン/マーキー・ムーン
70年代後半のパンク/ニュー・ウェイヴの波に半分以上乗り損ねたぼくは人間だが、そんななかで下手っぴぃだのチンケだのといって無視することができなかった数少ないバンドのひとつが、トム・ヴァーレイン率いるテレヴィジョンだ。ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンを語るとき、けっして外すことのできない77年のデビュー・アルバムがこれ。
演奏は、たぶん稚拙な部類に入るのだろうと思う。曲はお世辞にもポップとはいえず、あくまでも暗く重い。そして歌はというと、震える声が非常に病的だったりする。だが、それでも、彼らは美しい。それだからこそ、夜光生命体のように美しい。
その美しさの大半を担うのは、まちがいなくトム・ヴァーレインのギターだろう。早弾きなどとはおよそ縁のない、つっかえるような訥々とした指使いながら、それが奏でる旋律はまるでどろどろと溢れ出る情念のようだ。10分近いタイトル曲をはじめ、「VENUS」、「ELEVATION」、「TORN
CURTAIN」といった曲に用意された背筋がぞくぞくする瞬間、その美しさに涙がこぼれてしまいそうな一瞬、これを体感してしまったらもうだめだった。テレヴィジョンなしではいられなかった。トム・ヴァーレインなしではいられなかった。
ぼくが最も感銘を受けたギタリストのひとりが、こうして登場したのだった。
2004.10 |