陳琳/13131
陳琳(チェン・リン)。
四川省出身のこの中国人歌手の93年のデビュー・アルバムは、どういう経緯でか国内盤まで出たのだが、凡庸な編曲と奥行きのない平坦な録音は楽曲の出来を必要以上に貶め、さしたる印象をぼくに残しはしなかった。
それから12年。ぽっと出のアイドル歌手かと見紛うばかりのいでたちで、彼女は再びぼくの前に現れた。いや、視野に入っていなかったというだけで、実際はこの間、何枚かのアルバムを出し、日本のステージにも立ち、着実なキャリアを彼女は積んでいたわけだが。そう、今や陳琳はれっきとしたベテランなのだった。
というわけで、2005年春リリースの『13131』。
中国古楽器で用いられる数字譜で示されたこのタイトルは西洋音階「ドミドミド」に対応し、冒頭曲のサビのメロディーを表している。軽く小粋なこの曲もいいが、ぼくの胸を熱くさせるのは4曲めの「天使的選択」だ。テンポはミディアムながらも、たゆたいうねるビートがこの上なく心地よい。哀愁ある旋律ともあいまって、どこかアイルランドの牧歌的ロックのようでもある。大好きだ。
3曲め「雨夜」、9曲め「両个寂寞」なども味わい深い。けっして力まぬボーカルは陰影に富み、その声はあくまでも耳にやさしく響く。10年を超えるキャリアの、これが落ち着きというやつだろうか。ただ、どこかで王菲(フェイ・ウォン)の影響が感じられてしまうのは、中国の歌手として無理からぬところなのだろうか。
大陸の近年の音楽水準の高さを示すこの作品、随所に日本人が関わっているが、北京のベストテンのうち半分でドラムを叩いているのは元爆風スランプのファンキー末吉だという話はあながち嘘ではないようだ。
2005.10 |