CHINTAMI ATOMANAGARA/BIAR SEPI BERNYANYI

インドネシアでもタイでも現地のヒットチャートを賑わせる曲というのは、日本に多く入ってくるダンドゥットやモーラムなどといった地域独特の音楽ではなく、あからさまな欧米ポップスの影響下にある曲ばかりなのだという話を聞いたことがあるが、たとえばシャーデーなんぞと同じ土俵で相撲が取れそうなこのチンタミ・アトマナガラもそうした部類に入るのだろうか。

とにかく驚かされるのは、サウンド・プロダクションの水準の高さである。ダンドゥットやポップ・インドネシアと呼ばれてきたものとははっきり一線を画している。それらのチープさを、ぼくは舐めているわけでも馬鹿にしているわけでもないが、同じインドネシアの地でこれが制作されたとはにわかには信じ難いのだった。音色の選択も、アレンジの施されようも。

耳元で囁かれているような甘い錯覚を覚える1曲め、その美しさに頭を垂れざるをえない2曲め、流れるような映像を想起させる7曲め、さらにドラマチックに煽る10曲め。これら極上のレベルに達した作品の出自はもはや問うべきではないだろうし、ワールド・ミュージックなどという括りで語ることにも意味はない。なんらかで差別化が図られるとしたら、それはただ英語で歌われていないということだけだ。

怖いほどに洗練され、削ぎ落とされた、きわめて上質のこれは音楽なのである。

2004.01