DE DANNAN/Ballroom

アイリッシュ・トラッドとはただもう素朴なものであり、それはときに田舎臭さやもっさりしたリズムと同義である。そんなぼくの誤った考えを見事なまでに粉砕したのが、トラッド畑だけでなく、ロック・ファンからも賞賛されたデ・ダナンのこの作品。

冒頭の第1音から只者でないことはわかろうというものだ。田舎臭さとももっさりしたリズム感とも無縁。というか、その対極。洗練、そしてダイナミズム。このうねり、この厚み。なんという演奏力。なんというアンサンブル。

驚異の演奏力を見せつける最たるものが、ユダヤのリールと銘打たれた8曲めのメドレー。特に後半。一気に爆発した後は、神がかりではないか、これはもう。なにかが宿っているとしか思えない。逆巻く旋律、怒涛のリズム。これを血湧き肉踊ると表現せずしてなんといおう。

というようなインスト・ナンバーと交互に、しかも絶妙に配置されたヴォーカル曲。演奏陣と互角に渡り合う滋味あふれる声に、枯れた節回し。歌うドロレス・ケーンの名とともに、アイルランドの古い神からいただいたというデ・ダナンの名を一躍世に知らしめた87年の名盤とはこのことだ。

聴いた者の取るべき道はふたつある。
踊るか、釘付けになるか、だ。

2003.07