JOWANA MALLAH/Ala Koullin Bahwak

数ある音楽のなかでも、官能ということばが最もふさわしいのはアラブ歌謡ではないかと、ぼくは思っていたりする。「髪結いの亭主」がお気に入りの映画のひとつだからとかそういうわけではけっしてなく。

しかし、実際、あれは官能的なシーンの多い映画だった。そこではあの濃厚な音楽と、それに合わせて踊られるベリー・ダンスとが結構重要な要素だったけれど、ああいうのこそエッチなのではないかとぼくは思う。あからさまな表現をせずとも吉行淳之介の文章がなによりそうだったように。

というわけで、レバノンの歌手、ジョワナ・マッラーハ。その国のおかれた状況から、なにやら政治的なことが歌われているような気がしなくもないが、その音楽自体は踊らせてナンボの世界。まぎれもないダンス・ミュージック。

加えて、ハスキーで甘さも備えた声と、こちらの勝手なアラブ幻想を裏切らない旋律。それこそ壷のなかから蛇が踊り出してきそうな。でもって、エッチ。しかも、濃厚。官能的である所以。

2003.07