キム・ヘヨン/カンクン・ナムジャ1

全19曲、ノン・ストップの47分。これでもかとばかりに繰り出される旋律の、なんと楽しく懐しいことだろう。歌うヘヨンの、なんと表情豊かなことだろう。彼女の口をついて出ることばの響きの、なんと甘く切ないことだろう。日本の歌謡曲が最も幸せだった時代を、ここに垣間見るような気がぼくはする。

フォークは歌謡曲よりエラい、ロックはフォークよりエラい、Jポップは演歌よりエラい、踏絵のようなそんな図式を、キム・ヘヨンは軽やかに超えてみせる。呼び名こそ違え、似たような呪縛と葛藤はかの国にだってあるはずだ。それらことごとくをあっけらかんと蹴散らすさまが美しくも痛快なのだった。それはまさに進撃の名にふさわしい。

ぼくには見えるかのようだ。古びた襖に穴を空けて、きゃははと走り回る彼女の姿が。やがて、家のなかの襖だけに留まらず、隣の塀を蹴倒したり、外国資本で建てられた鉄塔を根こそぎにしたりする日だってきっと来るのだ。なんとなれば、この声だもの。この節回しだもの。

2002.11