張美玲/福建舞曲専輯

往年の福建旋風を今に伝える張美玲、2002年の好盤。
同レーベルの歌手を集めたオムニバスなどでは一際個性的な声を聞かせていた彼女だが、これはという単独作品にぼくはまだ出会ったことがなく、その英名がジャクリーンだったというのもこの作品で初めて知った。

それにしても南方レーベルの女性歌手は、自分だけの持ち歌というのがいったいどれほどあるのだろう。これは小鳳鳳が、これは蔡可茘が、そしてこれは誰もがみんな取り上げていたあの曲じゃないかというのが、この作品では目白押しなのだった。その最たるものが「風真透」だろうし、「桃花過渡」や「歓喜就好」などは福建者なら即座にタイトルまでは浮かばずとも、その旋律はすっかりこびりついてしまっているはずで、ぼくなどは「きなっでほんちんたぅ」という合いの手なしではもはや「西北雨」は聴けないほどの重症ぶりであることが確認された。

そんな誰もがレパートリーにしている曲だらけで、下手をすればすべての勝利を小鳳鳳に持っていかれてしまいかねないなかにあって、張美玲ならではの最高のトラックは「天黒黒」だろう。高音部で声が裏返るのとは逆に、あたかもオモテ返ってしまうかのような低音で「べるほぅ」と歌われる部分、これだ。

独特のリズムや旋律ともあいまって、なにかこう非常に福々しいものを感じさせるではないか。これが豊作の予感というものかもしれない。どうやら芋掘りの歌らしいからいうわけではけっしてなく。

2003.01